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お大師様のことば(三十六)
大正大学名誉教授
文学博士・東京成就院長老
福田 亮成
この文は「越州の節度使に与えて内外の経書を求むる啓」の中の一文であります。末尾に、元和元年四月日本国求法沙門、空海啓す。とありますから、大同元年(八〇六)四月、実にお大師さま三十三歳の帰国直前に草したものでありましょう。
この文には、四つの難しい言葉があります。まず「葦苕(いちょう)」とは、葦は、あし、よしのことであり、苕は、豆の一種の名で、穂とか、高いさまをいう意味で、
空海(私)は、日本に生れ、牛の足跡の溜り水、いもむしなどの住む溜り水の中で生長しました。能力は米を容れる竹の器ほどのもので、学は盆を天にかざして何も見えないほどの見識しかもちあわせていない人間です。
なんとも謙遜した自己紹介の言葉です。他のところでは、ご自身を「底下の愚人」とも云っております。
中国の高い唐文化にふれ、広大な大陸を横断してきた旅の経験が、おのずからそのような言葉となってあらわれたのでしょうが、私はそこにお大師様の強い自信をみるものです。
六大新報 第四二六九号 掲載