お大師様のことば(三十九)
大正大学名誉教授
文学博士・東京成就院長老
福田 亮成
お大師さまの最初の拠点となりました高雄山寺、いまやその場所におきましてあの有名な潅頂がなされようとしております。この潅頂は、伝教大師最澄さまの要請によるものでありました。早速に寺側で開壇の準備がなされなければなりません。そのためにお大師さまは、「高雄山寺に三綱を任ずるの書」が起草されました。三綱とは寺院を統轄するための三役であります。寺衆を統率する上座に杲隣(七六七~八三七)、堂塔の造営管理をする摩摩帝に実慧(七八五~八四七)、日常の法務万端を指揮する羯摩陀那に智泉(七八九~八二八)の三人をそれに任命しておられます。この文章は、弘仁三年(八一二)十二月、お大師さま三十九歳の時、いよいよ真言教団をかためる為の絶好の機会が到来したことの、実に緊張感あふれる文であります。
“諸の金剛弟子等に語ぐ、それ頭を剃り染を着するの類は、わが大師薄伽梵の子なり。僧伽と呼ぶ。僧伽は梵名なり。翻じて一味和合という”と、仏教教団を和合衆という由縁であります。次のごとくにも云います。“仏弟子はすなわちこれわが弟子なり。わが弟子はすなわちこれ仏弟子なり。魔党はわが弟子にあらず。わが弟子はすなわち魔の弟子にあらず”と、実に厳しい。弘法大師を宗祖として仰ぐ私達は、現在ただ今において、この言葉を強く意識しなければなりません。宗団というものの責務は、実にここにあるように思います。このことは私達一人一人の胸に響かせるものでありますし、宗団を運営する責任ある方々の、最も重要な課題でありましょう。弟子達よ、深く深く出家の本意を考え、仏道に入ったわけを絶えず自問自答すべきでありというのであります。
六大新報 第四二七八号 掲載
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