お大師様のことば（四十一）

大正大学名誉教授・種智院大学客員教授
文学博士・東京成就院長老
福田　亮成



　密教が教える真実とは、何か抽象的なあるものがあるわけではなく、それがこの世に具現するのは、人間というものの人格を通してあらわれるのではないでしょうか。お大師さまが恵果阿闍梨より法を相承されたのでしたが、それは、恵果阿闍梨という人格に具現された法の真実であったわけであります。むろん、授けられました真言や印契は、恵果阿闍梨の暖かな血の流れにのせられて伝えられたに違いありません。

　さて、法身大日如来は真実の具体的な表現であります。それを宇宙大生命体といわれることがあります。地球は生きているということにかけて、そのことを考えますと、生きている地球、そして宇宙に拡大します大生命の当体こそが、法身大日如来であるということになりますと、法身大日如来とは宇宙そのものの主体、即ち宇宙神的な様相をおびることになってしまいます。それでは如来（ほとけ）ではなくなってしまいます。

　大日如来は五智の宝冠を頭頂にのせております。大日如来は五智の当体です。五智とは私達の身・心のうえに獲得されるべきものでありますし、ようするに私達の最も理想的な完成されたありかたにほかありません。よって大日如来とは、私達の内に実現される、いや実現されているものでありまして、絶対に私達を離れて別にあるものではないはずであります。
『性霊集』の第一に
　遮那（しゃな）は阿誰号（たれかな）ぞ　本これ
　　我が心王なり
　とあります。

　お大師さまは、恵果阿闍梨について、その人となりを“貧を済（おし）ふに財（ざい）を以（もっ）てし愚（ぐ）を導（みちび）くに法（ほう）を以てす。財（ざい）を積（つ）まざるを以て心とし法（ほう）を慳（おし）まざるを以て性とす”と。それは恵果という人格にあらわれた法以外の何ものでもありません。



六大新報　第四二八三号　掲載

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