お大師様のことば(九十八)
大正大学名誉教授・種智院大学客員教授
東京成就院長老
福田 亮成
この言葉は、お大師さまご自身の生涯をとおして深くうなずきをもって説かれたものではないだろうか。私のように浅い人生をおくっている者にも、おもく聞こえてくる言葉である。
人間、自分の人生のすべてを明るく過ごせる人なんていないのではなかろうか。もし、あるとすれば、暗闇のなかをもくもくと生きてきた過程で、努力して明るさを掴み取った人ではないだろうか。才能にまかせて得た幸福、
暗闇の生活であっても大日如来の大慈悲心の光明を導きてとして精進してゆく、そこに”途に觸れて皆な宝なり”という世界が開顕されてゆくはずである。
お大師さまは、青年期に七年の空白時代があった。
弟子空海、
と、その苦しかった頃を思い出している。ご自身の生きていく道をいまだ知ることなく、種々な問題にぶつかり、幾たびか泣いたことであろう、と。
人生の岐路にあたり悩みに悩んだお大師さまの
六大新報 第四四三〇号 掲載