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水面の月 水面の月

第六回 宗教の役割

清風学園
専務理事・校長
平岡 宏一

 先日、ハーバード大学教授で、J.ブッシュ大統領(父ブッシュ)の時代に大統領補佐官も務めたロジャー・ポーター博士が来校された。博士は経済同友会の招きで来日され、旧知であった私の学校にも立ち寄って下さったのだった。生徒を対象にお話を頂いたが、その中で博士は、リーダーの生き方について次のように語られた。「人生の最期に、自分はこのような人物になっていたいとイメージし、日々それに向かって努力する生き方をすることが大切である。自分の目指す人格の完成を人生の最終目標と定めて、現時点におけるすべての選択を、その目標に近づけるものなのか、遠ざけるものなのかを基準に行うようにする。この道を目指す者は、常に自分と戦いつづけねばならないが、他人に勝利する必要はない。」
 ダライラマ法王も講演会の最後に、「次回お会いするときは、今日よりも必ず心の成長を遂げているように心掛けよう」とおっしゃる。目先の仕事の成否だけに関心を持つのではなく、自分の人格の成長に強い関心を持つ生き方は、心を清めて悟りを目指す大乗仏教徒の特徴的な生き方だと思っていたが、熱心なモルモン教徒であるロジャー・ポーター博士のお話を伺い、洋の東西を問わず、宗教心を持つ者は、自らの心の成長に同じように大きな関心を持つのだということを知った。
 淋しいことだが、多くの人が、年をとるとともに我儘になり、人格が崩れてくるようなケースをよく眼にする。しかし、本来、「老」という文字は、「積み重ねていく。経験を積んでいく。」という意味を持っている。孔子は「六十にして耳したがう。七十にして心の欲する所に従ってのりえず。」と説いたが、たとえ肉体は老いていくとしても、心はより高いステージへと成長を遂げていくことが「老」の理想であろう。
 世界各国で支援活動を行う国際協力NGOジェンの事務局長木山啓子さんに、ロジャー・ポーター博士のこの話をさせて頂いた。彼女は、しばらく黙って考えたあと、過去の体験談を交えながら、次のように答えた。世界の紛争地域で、異常事態にある人々の中でも、しっかりとした信仰を持つ人たちは、比較的早く心の平静を取り戻すことができる。それは日常的に自分の心の有り様に関心を抱いているからではないかというのが木山さんの見解であった。彼女は、「ノルウェーでのキリスト教原理主義者によるテロ等で、宗教を国際紛争の原因とする論調には自分は加担しない。宗教者はいずれの地域でも寛容な人物が多く、彼らが原因で紛争が起こることはない。自分の見てきたあらゆる紛争の種は、宗教でなく経済的理由に限られていて、宗教が政治利用をされているだけではないか」と述べていた。
 「人が生きるために必要なもの。それは何かしてもらうことではなく、誰かのために何かしてあげること。利他の心が生きる力を甦らせる。」というのが、木山さんの持論である。以前にも述べたが、人に奉仕できる人物になれるか否かの分岐は、自分に集中している関心を他者に向けていくことが出来るか否かであると私は考えている。
 多くの偉人は、他者のことを第一に考えて、自分も含め多くの人々を幸せにすることができる。一方で自分のことばかり考えている我々は、自分ひとりさえ幸せにすることもできないのはなぜだろうか。木山さんが言うように、他者のことを考えることができた時に生きる力が涌き、自分も他人も幸せになれるというのはなぜだろうか。自分に向いている関心を外に向けていくということは、他人に対して感謝できるようになるということだ。自分に向いている関心は、自分に対しての待遇ではなく、自分の心の有り様に向けられていくべきなのだろう。自らの心を内省し、自分の人間性をより高めてゆこうと努力することで、人格は向上してゆく。宗教は本来、そうした人間の心の成長の為の役割を担うものなのだ。
 リーダシップ論の最高権威である神戸大学大学院の金井俊宏教授によると、リーダーになるためには様々な条件が必要であるが、それを順に削ぎ落として、最後に残る究極の条件とは、「正しい倫理観を持ち、それに裏打ちされたぶれない軸を持っていること」だという。そうした素養を身に着けるためには、他者に対して貢献したいという強い想いと、自分の心の有り様を見つめていく根気強い意志が必要だ。それこそが知識を教養に、そして智慧へと昇華させていく。自分の心の進歩に関心を持たすことが宗教の重要な役割とするならば、混迷の現代社会において宗教者が果たすべき役割は大きいのではないだろうか。



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